現場の力になれる
平成24年に任官後、大阪、新潟、東京、横浜、神戸などで勤務
現在は、法務省刑事局刑事法制管理官室勤務
平成24年に任官後、大阪、新潟、東京、横浜、神戸などで勤務
現在は、法務省刑事局刑事法制管理官室勤務
皆さんは、刑法や刑事訴訟法等の刑事法の改正がどのように行われているか知っていますか?
私は、検事任官後、捜査・公判の現場で、実際に発生する事件を適切に解決することに尽力していましたが、事件解決のために使う刑法や刑事訴訟法の条文を変えるということは全く考えたことがありませんでした。
しかし、刑事法の立案作業などを行っている法務省刑事局刑事法制管理官室で働くようになり、検事の仕事には、法改正に関わることができる仕事があることを知りました。実際にこれらの法律の改正業務に関わってみると、とてもやりがいのある仕事だと感じています。
法律はいつの時代も完璧なものであるとは限らず、社会が変化したり、法律ができた当時は想定もしていなかったような事件などがきっかけとなったりし、今の刑事法は不十分なのではないか、という声が上がることがあります。
私たちは、そのような問題について、まず、必要な調査をし、法整備の必要性やその具体的な内容・問題点などを検討します。そのような調査・検討を経ると、次は、「法制審議会」における調査審議を行います。法制審議会は、法務大臣の諮問を受け、刑事法の研究者や実務家、関係分野の専門家・当事者の方などが委員として参加する会議であり、法改正の在り方について、理論的・実務的な観点から様々な議論が行われます。私たちは、この会議のための準備を行い、実際に会議にも参加します。
法制審議会で法改正の要綱案が採択され、法務大臣に答申されると、次は、国会に提出する法律案の立案作業を行います。私たちは、答申の内容を踏まえながら条文を作りますが、その際には、一つ一つの文言について、どのような表現が適切か、他の条文との間に矛盾はないかといったことなどを丁寧に検討し、細心の注意を払いながら条文を作っていきます。
こうした作業を通じてできた法律案は、国会に提出され、国会での審議を経て、法律となります。
私が関わった刑法及び刑事訴訟法の改正は、法務省における調査・検討開始から最終的に法律ができるまでに約5年間を要するものでした。
私が実際に改正作業に携わったのは、法制審議会における調査審議の途中から実際に法律が成立するまでの約1年3か月の間でした。立案作業は、私を含めて複数人の担当者がチームとなり、お互いに協力し合いながら作業を進めましたが、作業に当たっては、私が担当になるよりも前から行われていた調査・検討の蓄積が必要不可欠でした。
このように刑事法の改正作業は、長期的で大規模な作業となります。その過程では、問題となっている事象について、どのような条文であればそれが解消できるのかを考える必要があり、検事として捜査・公判の仕事をしていたときの問題意識や経験を活かすことができました。
また、条文の内容を考えるに当たっては、過去の議論や他の条文との整合性を検討する必要がありますが、改めて刑法や刑事訴訟法を勉強することで、これらの法律についてより深い理解が得られ、自分の成長にもつながりました。
さらに、捜査・公判の現場では、一つの事件を一人で担当することが多いのですが、立案作業では、複数人の担当者が一つの目標に向かって長期間にわたりチームとして仕事をすることになるので、苦楽を共にする中で絆が深まったようにも思います。
そして、最終的に、自分が立案に関わった条文が六法に載ったのを見たときには、苦労を重ねて達成した成果を実感することができ、とても感動しました。
何より、刑法や刑事訴訟法は捜査・公判の現場に欠かせないものであり、私が携わった改正により、少しでも救われる方が増えたり、捜査・公判の現場で日々事件解決に尽力している方々の力になれたりすることができたと思うと、本当にこの仕事に関わることができて良かったと実感しています。
検事を目指す皆さんには、このような仕事があるということを知っていただき、少しでも興味を持ってもらえれば幸いです。