一発勝負の緊張感
平成25年に任官後、大阪、水戸、東京、千葉、熊本、京都の各地方検察庁で勤務
現在は、東京地検公判部勤務
平成25年に任官後、大阪、水戸、東京、千葉、熊本、京都の各地方検察庁で勤務
現在は、東京地検公判部勤務
私は、司法修習の時に、被害者と真摯に向き合うことで被害者の役に立てるという検事の仕事に魅力を感じ、検事を志しました。
捜査を遂げて被疑者が公判請求されると、公判が始まります。
現在、私が所属している公判部の仕事は、起訴された事件について、適正かつ迅速な公判手続を確保した上で、公判廷で事案の真相を明らかにし、適正な判決を得ることです。
そのため、公判部の検事は、捜査段階で収集された証拠を精査して、起訴された事実(「公訴事実」といいます。)や手続等に瑕疵(かし)はないか、公判で立証するための証拠は十分にそろっているかということについて、捜査担当の検事とは別の目で改めて検討します。
その上で、公訴事実を立証するために、どのような証拠を裁判所に提出するべきかなどを検討して立証計画を策定します。
例えば、否認事件の場合には、被告人や弁護人の主張を踏まえて、必要に応じて証人尋問を請求したり、反論や反証に対する対策を準備したりします。また、捜査段階で収集された証拠以外にも、立証に役立つ証拠を収集すべきと考えたときや、公判段階で被告人の主張が変わったときなどには、公判部でも捜査をして、新たに証拠を収集することもあります。
以前担当した酒気帯び運転の裁判では、被告人は、「酒を飲んで運転はしていない。」と弁解していました。
私が証拠を精査したところ、被告人が運転していた車両から、ビールの空き缶が押収されていることが分かりました。私は、空き缶の飲み口から被告人と同一のDNA型が検出されれば、飲酒運転の事実を主張立証しやすくなると考え、DNA型鑑定を実施したところ、空き缶の飲み口から被告人と同一のDNA型が検出されました。公判で鑑定書を証拠請求したところ、被告人は一転して公訴事実を認め、被告人質問では、嘘をついて罪を免れようとしたことを詫びるとともに、もう二度と犯罪はしないと誓いました。
私は、このような経験から、真相解明のために、熱意を持って捜査をすることは公判でも重要なことであり、真相を解明した結果、被告人が自らの罪に向き合うことができれば、被告人の更生にもつながるのだと強く実感しました。
公判立会の醍醐味は、一発勝負の緊張感です。
以前担当した覚醒剤密輸事件の裁判では、被告人は、「密輸組織に騙されて、覚醒剤だと知らされないまま運び屋をさせられた。」と主張し、覚醒剤密輸の故意を否認していました。
私は、被告人の弁解が真実であるかどうかを見極めるため、スマートフォンから解析した被告人と密輸組織関係者との間の膨大なメッセージデータを徹底的に分析し、やりとりの内容から、被告人は覚醒剤密輸の故意があったと確信しました。
そこで、私は、被告人質問で、どのような質問をすれば、被告人供述の不合理性等を浮かび上がらせることができるのか、被告人の回答を何パターンも想定して準備をしました。
被告人質問では、私が質問を重ねていくと、被告人は、答えに窮したのか、とっさに密輸関係者とのメッセージと明らかに矛盾する内容の供述をしました。
私は、このような展開は当初予定していませんでしたが、今が被告人の弁解を弾劾するチャンスだと考え、間髪入れずに、メッセージが記載された証拠を被告人に示して矛盾点を追及しました。
被告人は、しどろもどろになって明らかに不自然な弁解しかすることができませんでした。
その結果、覚醒剤だと知らずに運んだという被告人の弁解も、全体としてつじつまの合わない不合理なものであるということを法廷で明らかにすることができ、最終的に、被告人には有罪判決が言い渡されました。
法廷では、被告人が何を供述するか分からないという緊張感がありますが、証拠を徹底的に分析するなどの努力をした結果、法廷で臨機応変な対応ができ、適切な判決の獲得につながったときの達成感や充実感は、他の仕事では味わうことはできないものだと思います。
検察庁には、豊富な経験を持つ上司や先輩検事、気兼ねなく相談できる同期の検事、検察事務官など、心強い味方がたくさんいるので、より良い公判活動を可能にするため、組織としての強みを活かした取組も行っています。
例えば、裁判員裁判などの重大事件では、公判前に、公判部の上司、検事、検察事務官が一堂に会して、冒頭陳述や論告のリハーサルを行うことが一般的です。
そこでは、裁判員や裁判官に対し、検事の主張をどのように説明すれば、より説得的で分かりやすくなるかということについて、自由闊達な意見交換を行います。意見交換では、検事だけでなく、若手の検察事務官からも、専門用語が分かりにくいなどの点を率直に指摘してもらうこともあります。
こうした意見交換を重ねることで、より説得的で分かりやすい冒頭陳述や論告が完成するのです。
殺人、傷害、危険運転致死傷など故意の犯罪行為により人を死傷させた事件や、不同意性交等・不同意わいせつ、逮捕・監禁、過失運転致死傷などの事件の被害者や遺族(以下「被害者等」といいます。)は、公判に参加できるという被害者参加制度があります。
被害者参加人は、自らあるいは代理人弁護士を通じて、検事と一緒に法廷に出席し、被告人や情状証人に質問をしたり、被害後の心情をしたためた書面を朗読したりできます。
事件によっては、争点が多く、内容も複雑であるなどの理由で、争点や主張の整理等に時間がかかり、公判が始まるまでに長い期間がかかるものもあります。
その間、被害者等は、様々な思いを抱えて公判が始まるのを待つことになります。また、すぐに公判が始まったとしても、やりきれない思いを抱えて公判に参加する被害者等もいます。
私は、このような被害者等に検事としてできることとして、まずは、お一人お一人からお話をよく聞くように心がけています。
被害者等の気持ちに寄り添うことは容易なことではありませんが、真摯に向き合い、その気持ちを汲んで公判活動を行うことを心がけ、被害者参加制度を利用して良かったと思ってもらえるように努めています。
以前担当した交通死亡事故の裁判では、事前の打合せで、被害者参加をしている遺族から、「被告人は事故後、謝罪や被害弁償などの対応を一切していないので、真摯に反省していないと思う。」という話を聞きました。
そこで、私は、被告人質問で事故後の対応の不十分さを指摘し、被告人から「今後は誠意を持って対応する」と、遺族の前で誓ってもらいました。裁判後、遺族から、「私の気持ちを代弁してもらえた。担当検事があなたで良かった。」と感謝されました。
私は、事故で辛い思いをした遺族の力になることができたと感じ、検事になって良かったと心から思いました。
検事の仕事は、責任重大な仕事ではありますが、その分やりがいがあります。
皆様と一緒に働く日を楽しみにしております。