他機関勤務(国際)検事の写真

検事の経験が活きる

平成17年に任官後、東京、高松、大阪、さいたま、静岡、千葉の各地方検察庁で勤務
また、EUで在外研究を経験したほか、外務省に出向し、3年間にわたり在ジュネーブ国際機関日本政府代表部に勤務し、現在は法務省刑事局国際刑事管理官室勤務


検事を志した理由

 私は、司法修習期間中に、被害者と共に泣き、また、被疑者・被告人の更生にも心を砕く検事の職務に触れて魅力を感じ、検事を志しました。
 任官後は、捜査公判の第一線で働き、充実した毎日を過ごしました。

在外研究で受けた衝撃

 任官して約6年経った頃、EUにおける国際捜査の実情について調査するため(在外研究といいます。)、半年間EU諸国に滞在する機会をいただきました。
 それまで日本の刑事司法しか知らなかった私は、EU域内における国際捜査協力の先進的な仕組み(EU域内では、例えばA国の裁判官が発付した逮捕状を使って、B国の警察官がB国にいる被疑者を逮捕し、A国の当局に引き渡すことが可能なのです。)を学んで、外国ではこんなすごいことをやっているのかと衝撃を受けました。
 また、私はこのとき初めて外国の検事と接し、言語や文化や法律は違っても、外国の検事が、日本の検事と同じように情熱をもって犯罪と戦っていることを知り、感激しました。
 半年間という短い間でしたが、当初の予定よりもはるかに多くの国々を訪問して各国の検事と語り合い、今後は協力し合って犯罪と戦おうと固く誓い合って帰国しました。

検事が国際会議で果たす役割

 任官11年目には、外務省に出向し、3年間にわたって、スイスにある在ジュネーブ国際機関日本政府代表部(以下「代表部」と略します。)で働きました。
 代表部の主な仕事は、日本政府を代表して各種国際会議に出席し、日本の考えを説明したり、会議で採択する決議案の文言交渉をしたりすることでした。
 私は、国連の人権理事会を中心に、人権関係の数多くの国際会議に出席しました。
 世界各国から派遣されたプロの外交官たちが、自国の主張を巧みに展開する中、日本代表として、負けじと日本の立場を主張するのが私の仕事でした。
 日本を代表して発言する緊張感と重圧は経験したことがないものであり、例えば、世界中から100名を優に超える関係者が集まり、白熱した議論が繰り広げられる議場で、私が議長に発言を求めて、議長に「Japan」と指名され、議場が一瞬しんと静まりかえる中、「Thank you, Chair.」と話し始めるときの、あのなんとも言えない緊張感は忘れられるものではありません。

外国と協力して犯罪に立ち向かう

 私は、帰国後、法務省刑事局や地検、最高検での勤務を経て、現在、法務省刑事局の国際業務を担当する部署で働いています。
 ここでは、刑事に関する条約の交渉や、国際捜査の支援・調整等の業務を行っています。
 ジュネーブでの経験を生かし、条約交渉にも積極的に取り組んでいますが、ここでの仕事の醍醐味は、なんといっても国際捜査です。
 越境犯罪では、犯罪の証拠が外国にあったり、犯人が外国にいたりという事態が起こりますが、そのようなときは、事件を捜査している検事からの依頼を受けて、外国の当局に協力を要請し、証拠の収集・送付や、犯人の身柄の引渡しをしてもらうことになります。
 私の仕事は、そのための相手国への依頼や、交渉、各種調整を行うことです。
 業務の性質上、日常的に外国の当局とメールで連絡を取り合っていますし(使用言語はほとんど英語です。)、必要に応じて、外国に出張し、相手と膝詰めで交渉することもあります。互いの国の言語はもちろん、法制度や価値観が大きく異なるため、こちらが求めているものが相手になかなか理解してもらえず、苦労することもよくあります。
 ただ、相手の当局も、犯罪の撲滅や被害者の保護といった共通の目的に向かって仕事をしているので、粘り強く交渉すれば理解し合えることが多いです。
 最終的に、証拠等を入手でき、相手と笑顔で握手を交わして感謝を伝えるときや、捜査の主任検事から感謝されたときには、これまでの苦労が吹き飛び、報われた気持ちになります。 
 このほか、G7やその他の国際枠組みで、各国の国際捜査の調整業務担当者と情報交換をするための会議が年数回開催されるので、それに参加し、国際的な犯罪のトレンドや、各国の対応状況などについて情報を集めたり、各国共通の課題について協議したりもしています。

おわりに

 在外研究で渡欧してから10年以上経ちますが、そのとき出会った各国の検事たちとは、今でも連絡を取り合っており、彼らとの関係は、私の大切な宝物です。
 今の仕事は、当時、EUの検事たちと交わした約束どおり、外国と協力し合って犯罪に立ち向かうことができる、とてもやりがいのある仕事です。
 捜査公判の第一線の検事の仕事が躍動感あふれ、魅力的であることはもちろんですが、それを支える国際業務もまた非常に面白い仕事です。


国際会議場の写真