「だらず」の人・映画監督岡本喜八

                                         元鳥取地方検察庁検事正 畔柳 章裕 

 今年は戦後70年ということで第2次世界大戦に関する話題が例年以上に多く、8月には「日本のいちばん長い日」という邦画も公開された。日本がポツダム宣言受諾による降伏を決め、終戦を伝える玉音放送を流すまでの数日間を描いた作品である。これは昭和42年に公開された東宝映画のリメイクであるが、オリジナル版を監督したのは鳥取県米子市出身の岡本喜八氏である。このオリジナル版は、本土決戦を避けるべく降伏を決めた政府と皇居を占拠して徹底抗戦を図ろうとした陸軍青年将校一派との攻防をドキュメンタリー風にまとめた緊迫感あふれる作品である。
 また、同時期の日本を題材にした岡本監督作品に昭和43年公開の「肉弾」がある。これは反戦映画の傑作であるが、戦争反対を声高に叫ぶのではなく、本土防衛に駆り出された一学生の目を通して、時にユーモアを交え、時にアイロニカルな視点で戦争のむなしさやばからしさをいきいきと描いている。重要な舞台として鳥取砂丘とおぼしき場所も登場しているので、是非ご覧になっていただきたい。
 岡本監督は、大正13年に生まれ、高校まで米子で過ごした後上京し、戦後東宝に入社、平成17年に亡くなるまで39本の映画を監督した。私は、学生時代に名画座で岡本監督の「独立愚連隊」シリーズを見て、アクションの痛快さやテンポの良さ、独特のユーモア感覚に魅了され、ファンになった。その後も「暗黒街」シリーズや「殺人狂時代」「大誘拐」等岡本作品のほとんどを見てきたが、何より自由を愛し、強い者にも決してこびない反骨精神が岡本作品の変わらぬ背骨となっていたように思う。
 その敬愛する岡本監督を生んだ米子地方には「だらず」という方言がある。元々は馬鹿、あほというからかい文句だったが、それが転じて、チャレンジ精神旺盛で新しいことにも積極的に取り組み、時に突拍子もないことをしてしまうがどこか憎めない、元気あふれる人のことを指すようになったと聞く。岡本監督は、西部劇の神様ジョン・フォードにあこがれ、70歳になってから大西部に乗り込み、侍や忍者がカウボーイと一緒に暴れ回る西部劇「イースト・ミーツ・ウエスト」を撮った。自分の信念は曲げず、しかし、やりたいことに挑戦し続けた岡本監督は、まさに「だらず」の人であったと言えるだろう。私たちが担う刑事司法の世界も、法改正やそれに伴う新制度の導入で大きな変革期にある。新しいことに挑戦するのはいつの世も大変なことだが、岡本監督の「だらず」精神を見習い、物怖じせず前向きに取り組みたいものである。

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