鳥取の民芸-用の美-

                                      元鳥取地方検察庁検事正 杉山 治樹 

 鳥取駅からほど近くに、瀟洒な土蔵造りの一群の建物がある。「鳥取の民藝コーナー」と称される建物群であり、山陰民芸のメッカである。
 鳥取には、陶芸、染織、木工など数多くの「手仕事」があるが、これらを「民芸」として発展させたのが、鳥取市出身の吉田璋也氏である。吉田氏は、医師を志して医専に進学したが、そこで哲学者柳宗悦の提唱する「民芸運動」に共感し、昭和の初めに鳥取市内で耳鼻科医院を開業すると同時に、自らを「民芸プロデューサー」と名乗って民芸運動に身を投じた。
 「民芸運動」とは、鑑賞するために造られた美術工芸品だけが美しいのではなく、むしろ、普段遣いする雑器の中にこそ真の美しさがあると考え、実用性、作者の無銘性、地域性、伝統性などを備えた「用の美」を追及していこうという運動である。
 吉田氏は、世界各地の民芸品の蒐集を通じて「用の美」を明らかにする一方で、新作の活性化を図った。陶芸を例にとると、鳥取には地域名を冠した「○○焼」という陶磁器はなく、牛ノ戸窯、中井窯などという窯元単位で日用陶器が作られてきた。こうした日用陶器窯は当時衰退の一途をたどっていたが、吉田氏は、「民芸の目」からその美しさを説き、現代の生活にふさわしいものとして、素朴で味わいのある焼物を当主を説得して製作させ、これらを「民芸窯」として再興させた。また、職人団体を結成して新作の研究を重ねるとともに販路を開拓し、その創作意欲をかきたたせるなどした。
 「鳥取の民藝コーナー」には、吉田氏が設立した「鳥取民藝美術館」、「たくみ工芸店」、「たくみ割烹店」の3つの建物が並んでいる。「美術館」では、主に古い時代の民芸品が展示され、「工芸店」では、鳥取を中心とした現在の民芸品が販売され、いずれも、平凡な一介の職人によって作られた実用品の中に、美しさを感じ取ることができる。そして「割烹店」では、こうした民芸品の器に美しく盛り付けられた鳥取の豊かな食材を味わうことができる。「生活的美術館」とも言われるように、食材の味わいや盛り付けの良さも、器とともに「用の美」の一部なのだろう。
 現在、法制審議会の「新時代の刑事司法制度特別部会」での議論が大詰めを迎えている。捜査・公判活動の遂行に有益な「新たな器」が得られるのだろうか。もちろん使い勝手の良い器を望みたいが、我々現場にある者としては、その器に何をどのように盛り付けるか、工夫を凝らして、「用の美」を追及したいものである。

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