因幡の白兎

                                      元鳥取地方検察庁検事正 瀧澤 佳雄 

 神話「因幡の白兎」の舞台として知られる白兎海岸が鳥取市内にある。海岸のすぐ近くの白兎神社には神話に登場する白兎が祀られており、境内には白兎が体を洗ったという池もある。この白兎は、縁結び、それも抽象的な縁ではなく特定の人との結縁の神とされ、若いカップルや女性連れを中心に参拝客が年々増加していて、神社前にある道の駅も盛況である。
 昔々、因幡の国に八上姫という大変美しい姫がいるという噂が出雲に伝わり、大国主命は兄弟神らとともに姫のもとを訪ねる旅に出かけ、その際、兄弟神らに持たされた荷物を入れた大きな袋を肩に掛けて後からゆっくりとついていった。先を歩く神々は、毛をむしり取られた兎を海岸で見つけ、体を海水で洗って風にあたれば治ると教えた。兎は言われたとおりにしたが、痛みがひどくなり、泣き苦しんでいると、そこに大国主が通りかかり、優しく事情を聞いた。兎は「淤岐の島から因幡の気多岬に渡るためワニを騙して海に並ばせ、その上を渡ってきたが、あと一歩のところで嘘がばれ、怒ったワニに毛をむしり取られた。先に通った神様に教えられたとおり海水を浴びて風に当たったが治らない。」と答えた。大国主は「真水で体を洗い、蒲の穂綿でくるまっていれば治る。」と教え、兎がそのとおりにすると間もなく元のような白い毛が生えてきた。感謝した兎は「八上姫はあの意地悪な神様ではなく大国主様を選ぶでしょう。」と言い、後日、この予言どおり大国主は八上姫と結婚した。
 この神話には、人を騙せば報いを受けるとか心根の優しい人は幸せになれるというような人生訓が含まれているが、白兎が縁結びの神と言えるかどうかはよく分からない。白兎は大国主と八上姫との縁を取り持ったわけではなく姫が誰を選ぶかについて常識的な予想をしただけであり、また、この神話の続きは、大国主が兄弟神らに妬まれ壮絶な迫害を受けて二度にわたり死んでは蘇り、黄泉の国で出会った別の娘神と結婚して出雲大社創生に至るという物語であって、八上姫と結ばれるハッピーエンドではないのである。ともあれ、神話には、その舞台となった地域の風習や経済等に大きな影響を及ぼす力が潜在していると思われ、知恵を絞ってその力を活用し地域振興を目指すのは神話の本旨に適うことであろう。白兎神社の由緒書きには「日本医療の発祥の地」という記載もあり、縁結びの次は医療関連で人々を集める日が来るかもしれない。

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