投入堂(なげいれどう)

                                      元鳥取地方検察庁検事正 北村 道夫 

 昨年夏、妻と次男が来鳥したので、3人で三徳山三佛寺(みとくさんさんぶつじ)に行った。三佛寺は、鳥取県のほぼ中央に位置し、三朝(みささ)温泉から車で10分くらいのところにある。三徳山は、706年に役行者(えんのぎょうじゃ)が修験者たちの行場として開いたと伝えられており、今年が、開山1300年にあたるということで各種行事が催されている。三徳山でもとりわけ有名なのは、国宝投入堂であり、登山開始の宿入橋(やどいりばし)との標高差は約200メートル、その行程は約660メートルある。投入堂は、岩窟の中に建っており、正直どうやって建てたのか考えてしまう。「役小角(えんのおづぬ)が法力で投げ入れた」と伝えられるのにも合点がいく。三徳川沿いの道路(望遠鏡が設置してある)から三徳山を見上げると、森の中にポツンと投入堂が見える。どことなく山形の山寺を思い出す風景だ。ところが、登り出すと、修験者たちの行場であることを思い知らされる。参道入り口の石段を上がって三佛寺本堂脇の登山事務所に行く。そこで、ノートに氏名、住所、入山時刻を書き入れ、輪袈裟(わげさ)と呼ばれる白い布のたすきを肩からかける。登山の途中で滑落して落命する者もいると聞いた。ガイドブックにあるように軍手をはめ、宿入橋を渡った。最初の難関はカズラ坂だ。かずらの根が入り組んだ急な坂を休み休み登った。しかし、目の前には今度はクサリ坂があった。くさりを頼りに岩を登る。崖上の岩場には、文殊堂があったがあいにく工事中で上がれず休息もできない。やっとその上の地蔵堂に着いた。舞台造りの堂で大パノラマが広がっている。正直言って「もう充分」と思った。体力の限界だと思って、次男にカメラを渡して「ここで待っている」と言った。父親の威厳など考える余裕もない。しばらく一人で休んでいると「投入堂まで行かなきゃ何で登ったか意味がない」というもう一人の自分の声がした。「絶対行くぞ」と自分を励ましながら再び登り始めた。何度か休みながら、くり抜いたような岩の中に建っている観音堂の後ろを回り込んで行くと、ついに投入堂が見えた。断崖絶壁に何故このような精緻な建物が建っているのか不思議でならない。本当に久し振りに感動した。妻と次男とうれしい再会をし、カメラを受け取り投入堂に向けてシャッターを押した。「来て良かった」と思った。裁判員制度も3年後には始まる。必ず登り切らなければならない山だが、達成したときの充実感があると確信している。

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