わらべ館

                                      元鳥取地方検察庁検事正 外岡 孝昭 

 「驛前で俥に乗り車夫の勝手に市中を廻って貰ふ事にした。『知頭きゃあどう』『鹿野きゃあどう』街道を車夫はさういった。市内一番繁昌の通が街道は面白いと思った。」。これは志賀直哉著の「鳥取」の一節である。この智頭街道沿いに鳥取地検があり、その隣に、ちょっと古めかしい様式の建物の「わらベ館」がある。この建物は、昭和5年に建設され、同18年の鳥取大震災や同27年の鳥取大火等の災禍を免れた数少ない歴史的建物である旧県立図書館の跡地に同図書館の外観を再現し、平成7年に開館したものである。
 「わらべ館」は、鳥取県立童謡館の「童謡の館」と鳥取市制100周年記念事業として開催された'89鳥取世界おもちゃ博覧会の顕彰施設である「おもちゃの部屋」からなっており、「童謡の館」では実物の二分の一大の藁葺きの民家を再現し、その障子に子供がわらべ歌を歌いながら遊ぶ姿を影絵で映しだしたり、昭和初期の小学校の教室を再現し、田村虎蔵、永井幸次、岡野貞一などの鳥取県出身の童謡、唱歌の作曲家の業績を紹介している。「おもちゃの部屋」は、「模倣おもちゃ」「競戯おもちゃ」「感覚・知覚・認識おもちゃ」「創造性開発おもちゃ」などのグループ別におもちゃを展示し、「おもちゃ工房」では、工作キットでおもちゃ作りが楽しめ、「あそぼう広場」では音とおもちゃで自由に遊べる空間を作っており、童謡と唱歌の世界を再現し、玩具を展示するとともに子供の遊びの場をも提供し、市民のボランティアがその活動を手伝ったりしていて、子供たちが群をなして遊んでいる。
 その様をみると、遊具を自作し、悪ガキが徒党を組み創意と工夫をしながら遊び、その中で、群の内の秩序を維持することの大切さや人に対する思いやりとかそれぞれの役割分担など種々のことを学習してきた子供時代が懐かしく思い出される。現在の子供達は、テレビゲームやパソコンに象徴されるように、一人遊びが多く、学齢に達すれば習い事や塾に追われる毎日で、群を作って遊ぶことが少なくなったように思われ、このことと家庭崩壊、幼児虐待、切れる子供等、子供を巡る問題とが無関係とは思われない。村落共同体社会から都市型個人主義の社会へ変貌してゆくなかにおいて、わらべ館のコンセプトである「すべての子供達と子供の心を忘れないすべての大人達へ」ということも意味深いものがあるのではなかろうか。また、島崎藤村がその著書「山陰土産」のなかで、「鳥取の特色はそういふ表面に現れたものよりも、むしろ隠れて見えないところにあるやうに思われる。かういふ都をよくみることはむずかしい。」と書いていることも考えさせられるものがある。

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