砂丘と農業

                                      元鳥取地方検察庁検事正 古畑 恒雄 

 鳥取地検では、さきごろ、自庁研修の一環として、鳥取大学付属砂丘研究施設の見学を実施した。鳥取地検に勤務する私どもにとって、鳥取砂丘は見慣れたものであり、その研究施設を改めて見学するほどのこともあるまいと考えていたが、最近、この施設がただ鳥取砂丘だけの研究をするのではなく、砂漠をもつ世界の国々と協力し、乾燥地の農業的利用に関する研究を行っていることを知って、初めて一般教養のカリキュラムに組み込んでみた。
 見学の案内をしてくださった竹内芳親農学博士の話は、門外漢の私どもにも分かりやすく、興味深いものであった。博士の説明によると、今次大戦前、砂丘は米作に不適という理由から不毛の土地と見なされ、風による飛砂の災害の元凶として嫌われたが、大戦後の食糧難を契機に、昭和24年から砂丘地を農業に利用しようという研究が始められた。当時の鳥取大学長・故佐々木喬農学博士は、専攻が作物学であったことから、この研究の熱心な推進者であったが、既にこの時期に将来の米の過剰供給を予言し、砂丘地に適した米以外の農作物の研究開発の必要性を提唱されたという。その優れた先見性には敬服せざるを得ない。その後、昭和33年に砂丘研究施設が発足し、飛砂の防止、水利・栽培の技術などを中心に着々と研究が進められた結果、やがて砂丘は不毛の土地どころではなく、立派な農業生産地帯に変貌した。現に、近時鳥取名産として広く売り出されている長いも、メロン、らっきょう、ぶどうなどはすべて砂丘地の産物である。
 竹内博士は、我が国の砂丘地研究に関する技術が国際的に高く評価され、現在、研究者達がイラン、メキシコ、イスラエル、中国など広大な砂漠を抱えた国々に招かれて乾燥地の農業開発に関する技術指導や研究協力を行っていることを熱っぽく話された。この分野でも、我が国の先端技術は世界を着実にリードしているのである。
 最近、地球の温暖化や乱開発に伴う環境破壊が大きな社会問題となっている。それだけに、この研究施設が地球規模の砂漠化の防止や乾燥地の食糧生産の場としての開発利用などの面で果たす役割はすこぶる大きい。
 この研修には、検察官・検察事務官合計16人が参加したが、一様に私どもの地元でこのような世界的レベルの研究が行われていることを知らず、驚きの声を上げていた。当庁としては、今後もこのような一般教養の研修を企画し、職員が時代の進展に遅れないように、専門外の分野に対しても眼を見開き、関心をもつようにしたいと考えている。

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