釧路湿原

最終更新日:2016年1月6日

元釧路地方検察庁検事正 吉村英三

 釧路市の北部に広がる我が国最大の湿原である釧路湿原が,昨年7月31日に全国で28番目の国立公園に指定された。
 釧路湿原は,広さ約2万6000ヘクタール(JR山の手線の内側とほぼ同面積)に及ぶ柏の葉のような形をした湿原で,全国の湿原面積の約60%を占める我が国最大の湿原である。
 釧路湿原には特別天然記念物のタンチョウをはじめ,我が国でもここだけしか生息しないといわれているキタサンショウウオなど貴重な野生動物が多数生息するほか,ヨシ,スゲなど多くの植物が分布しており,これらの種類をざっと数えれば,鳥類約170種,両生・は虫類9種,昆虫類約1150種,ほ乳類約26種,魚類約35種,植物約600種にのぼり,我が国最大規模の自然の宝庫であるといわれている。
 その形成の歴史をたどると,今から約1万8000年前の氷河期にさかのぼるといわれているが,釧路湿原は泥炭湿地帯であるため,農耕・放牧等に利用することができず,従来は何の役にも立たない広漠たる湿地帯というイメージでとらえられていた。
 しかし,この湿原が前述のように数々の貴重な動植物を包み込んでいる自然の宝庫であることの認識が高まるにつれ,その全体を国立公園として保護育成しようとの動きが始まり,昭和47年に釧路自然保護協会が「釧路湿原国立公園化構想」を提唱して以来,ようやく湿原の価値が人々によって再認識されるようになったのである。
 釧路湿原の景観は,現在の展望台から見るよりも釧路町細岡にある大観望という小高い丘陵から眺めるのがもっとも美しい。春と夏は濃緑色に包まれ,秋には黄金色のジュータンを敷きつめたような景観を見せるが,低く平で大きな広がりは単調的であるとさえいえる。しかし,この広がりの中をくねくねと蛇行する釧路川と点在する大小の湖沼,ところどころで膨らみを見せるハンノキ林や,色彩を違える高層湿原などが単調さを破っている。そして何よりも,広漠とした静けさの中で,西方の日高山脈に沈む夕日は雄大で,いかにも北海道らしい感じを与えてくれる。
 釧路湿原が国立公園に指定されたことによって釧路市をはじめ周辺の町村はにわかに忙しくなった。これを観光開発の目玉にして過疎と不況に悩む周辺市町村の活性化を図ろうというわけである。本州方面の不動産業者も入り込んで周辺の土地を買い占めようという動きが活発になってきている。しかし,釧路湿原は自然の神秘を秘めた宝庫であり,これを損わないようにして次の時代に引き継いで行くのが我々の務めであることを忘れないようにしてもらいたいと願うものである。

 本寄稿文は,研修(第477号 1988年3月号)【とびらの言葉】に掲載されたものを誌友会事務局研修編集部の許可を得て転載しております。

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