釧路とタンチョウ

最終更新日:2016年1月6日

元釧路地方検察庁検事正 前田邦博

 釧路と言えば,霧,釧路湿原,タンチョウ,毛ガニ,摩周湖などが有名である。そのことに異存はないが,私は,これらに「抜けるような青空」を加えるべきであると主張している。「青空なんてどこにもある」と思われる方は,晩秋から春先の頃に,ぜひ一度釧路地方へお出でいただきたい。そこいらの青空とは違う青空をご覧いただけるはずである。特に,釧路湿原が雪に覆われるころ,抜けるような青空を背にして飛ぶタンチョウの姿は,なんとも美しく,素晴らしいの一語に尽きる。
 そんなわけで,釧路での私は,突然写真マニアに変身している。
 そこで,釧路のタンチョウについて少しご紹介したいと思う。
 文献等によると,我が国のタンチョウは,その昔,北海道各地に数多く棲息し,本州にも飛来していたらしいが,その後一時は絶滅したと思われていたところ,大正13年に10数羽のタンチョウが釧路湿原に棲息していることが確認されたという。そして,昭和10年にタンチョウが天然記念物に指定され,同27年には,「タンチョウ及びその繁殖地である釧路湿原」が特別天然記念物に指定されてようやく保護の機運が高まった。また,昭和33年には,釧路市丹頂鶴自然公園が開設され,人工ふ化,人工飼育の試みも始められた。この話になると,同公園の責任者である高橋良治氏のことを避けて通ることは出来ない。高橋氏は,同公園開設以来40年に亘つて,鶴の人工ふ化及び飼育に携って来られた方で,「鶴になったおじさん」として有名である。
 高橋氏の話によると,当初の数年間は,鶴の飼育,生態観察及び自然ふ化の試みに費やされ,人工ふ化に取り組むようになったのは昭和39年からで,初めてこれに成功したのは同45年だったとのことである。ちなみに,これまでに人工ふ化を試みた卵の数は約150個,ふ化に成功したのは約90個,そして,自分で飛べるまでに成長したのは39羽だという。
 タンチョウの生息数については,昭和27年から毎年12月に一斉調査が行われている。同年は33羽だったが,その後,37年に184羽,47年に222羽,57年に320羽,平成4年に507羽,同9年に579羽が確認され,同10年1月の再調査では,616羽が確認されている。
 タンチョウは,一旦つがいになると,生涯を共に暮すと言われているが,実際には,少々移り気な鶴もいるらしい。しかし,その子育てには目を見張るものがある。ヒナが成長するまでは,全く子供に甘い親ぶりであるが,次の産卵の季節になると,子供を一人立ちさせるために激しく突き放す。その様子は,最近の人間が忘れている本当のやさしさや厳しさを教えてくれる。私は,この素晴らしい自然の営みに感動すると共に,自然の大切さを改めて噛みしめているところである。

 本寄稿文は,研修(第598号 1998年4月号)【とびらの言葉】に掲載されたものを誌友会事務局研修編集部の許可を得て転載しております。

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