風雪の樹

最終更新日:2016年1月6日

元釧路地方検察庁検事正 會田正和

 JR釧路駅前広場に1本のイチイの木がそびえ立ち,その前には「風雪の樹」と刻された石碑が建てられています。
 私は,平成15年12月に釧路地検に着任して間もなく,このイチイと石碑に気付き,石碑の「風雪の樹」との文字にひかれ,この木の由来を調べてみました。
 石碑の裏面の記載を読み,釧路駅長やかつて国鉄に勤務された方などにお聞きしたところ,この木は,昭和47年9月13日に,当時の釧路鉄道管理局が釧路市緑いっぱい市民運動世話人会から寄贈され,鉄道開通(明治5年新橋・横浜間で開通)100周年と釧路市制50周年を記念して植えたものであることが分かりました。
 イチイは,常緑針葉樹で,北海道ではオンコ,本州ではアララギと呼ばれています。仁徳天皇の時代に,正一位の者が持つ笏をこの木で作ったことからこの名が付いたと言われ,耐寒性・耐陰性があり,雪にも強く,北海道でよく見られる強健な木で,検事正官舎の庭にも植えられています。材質はち密で狂いにくいことから,家具材や鉛筆材などとして利用されています。
 さて,この木の名付け親は,当時の釧路鉄道管理局長と前記世話人会の代表だそうで,お二人が相談の上,「風雪の樹」と名付けたとのことであります。周知のように,釧路は,春から夏にかけては海霧が発生するため日照不足となり,秋には晴れるものの気温は上がらず,冬は降雪もあって気温は零下の日が続くという気象条件の極めて厳しい土地ではありますが,これに耐えながら,たくましく生き生きと生活している釧路市民の姿は,風雪に耐えながら大地にしっかりと根を張るイチイと同じであり,この木を,そのような釧路市民のシンボルとしたいとの思いから,「風雪の樹」と名付けたとのことであります。
 釧路駅付近の大木は,この木しかないためか,秋には,ツグミが根城にしており,野鳥の保護にも貢献しているようです。
 我が検察は,司法制度改革という激動の中にあり,時には,向かい風が吹くこともあるかもしれませんが,これに耐え,根ざし揺るがぬ「風雪の樹」であり続けたいと念じている今日このごろです。

 本寄稿文は,研修(第680号 2005年2月号)【とびらの言葉】に掲載されたものを誌友会事務局研修編集部の許可を得て転載しております。

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