山下前検事正着任挨拶

最終更新日:2015年12月28日

平成24年7月2日

 去る6月26日付けで釧路地方検察庁の検事正を仰せつかり,本日着任いたしました。
 釧路地検どころか北海道での勤務は初めてです。
 検事正と呼ばれるのも初めてです。
 そして,本日は初めての登庁日です。
 こうして挨拶をするのも初めての経験になります。
 初めて尽くしですが,この機会に自分の考え・姿勢をお伝えしておきたいと思います。
 たった3つだけです。
 それは検察特有のものではなく,どの社会や組織にも共通のものです。ですから,既に古くから先人の言い伝えがありますので,それを御紹介する形で述べてみたいと思います。
    1点目が「守(しゅ) ・ 破(は) ・ 離(り)」
    2点目は「先ず隗より始めよ」
    3点目が「知 (ち)・ 好(こう) ・ 楽(らく)」
です。

1 守・破・離
  これは,古武道や伝統芸能の世界で言われているものです。
  最初は師匠の教える型を頑なに守ります。しかし守ってばかりでは駄目で,その型を破って工夫する必要がある。そして,最後には師匠から離れ,独自のものを作り上げる。それでこそ一人前になるという意味です。それも各段階10年がかりです。
  「守」ばかりでは,師匠を超えられません。前例踏襲も大事ですが,前例には前例の背景事情があり,その際に作った人がいるわけです。事情が変われば工夫して応用して前例を乗り越える必要があります。
  常に「破」と「離」を意識してこそ,周囲の事情変化に対応できると思っております。

2 先ず隗より始めよ
  これは,御存知かと思いますが,中国の故事成語です。
  燕の国の昭王が,強い国を造るにはどうすればよいかと臣下の「郭隗(かくかい)」に聞きます。
  この隗が答えて言います。
 昔,或る王が一日に千里駆ける馬を求めて,或る人物に千金を託します。探し回った末に,結局,死んだ馬を五百金で買って首を持ち帰ったのです。
 これに怒った王に対して,死んだ馬を持ち帰った人物は,こう言ったのです。
 「大丈夫です。死んだ馬にさえ五百金を払ったのです。千里駆ける馬にどれだけ払ってくれるだろうと期待して自然に集まります。」と。
 実際そのとおりになり,要するに王の身近にいる何の取り柄もない私,つまり隗を取り立てれば,有能な人材が集まるでしょう。
 元々は,「灯台下暗し」や「大事の前の小事」と同じ意味ですが,これが転じて,先ず自分で率先してやるという意味で使われております。
 人を動かすのは大変で,人を変えるのは困難です。
 自分が動くのは簡単で,自分を変えるのは容易にできます。
 自分が変われれば周りが影響を受けて変わるでしょう。まさに意識改革が組織改革です。

3 知・好・楽
  これは,論語に出てくるものです。
     知之者不如好之者 (これを知る者 これを好む者に如かず)
     好之者不如楽之者 (これを好む者 これを楽しむ者に如かず)
 何事においても知識や知恵は重要です。重要ですが,好きでやる者には,かなわない。「好きこそものの上手なれ」と一緒です。
 さらに,好きでやっているうちはまだまだで,それを楽しんでこそ本物である。つまり良い仕事ができるというわけです。楽しむとは興味を持つという意味に近いものです。
 楽するのではなく楽しむわけですから,「ち こう がく」と読むべきだと思いますが,楽しみ,興味を持てば顔には自然に余裕ができて,笑みが浮かびます。そういう域を目指したいと思っています。

 終わりに
 現代の名言を引用して皆さんにお願いします。経営の神様,松下幸之助の言葉です。
   百人までは命令で動くかもしれないが,千人になれば頼みます。
   一万人にもなれば,拝まなければ人は動かない。
 私の実感は,こうです。
   十人までなら命令で動かせる。
   百人なら命令で動く「かもしれない」であり,既に「頼み」「お願い」の領域
  です。
 これでいきますと,最高検は,全国一万人規模の検察庁職員を命令で動かせるはずもなく,「拝むしかない」ことになります。
 その点,釧路地検は百人を僅かに超える規模の庁です。命令で動く「かもしれない」のが「百人まで」なら,これを超えているので皆さんに「頼む」,「お願い」することになります。

 まとめますと,基本を身に付け,工夫・応用して新たなものを作り上げ,それを楽しむ余裕を持ちつつ,自ら率先して仕事をしてみてください。これが私の「お願い」になります。

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