「釧路ならでは」の地域交流で学ぶ

最終更新日:2015年12月28日

元釧路地方検察庁検事正 山 下 輝 年

地域に根付く催し
 全国50庁ある検察庁の中で釧路独自の活動があります。それは「名士隠し芸」で検事正が日本舞踊を演ずること!
  これは「社会を明るくする運動」と関連があります。釧路更生保護女性会が中心となる「名士職域かくし芸 芸能大会」の催しが年1回あり,今年でなんと58回目。会場は釧路市生涯学習センター(通称:まなぼっと)の大ホール(800席)。地域の各界の協力を得て半世紀以上続いているのですが,主役は市民で,出し物はコーラス,日本舞踊,フラメンコ,スコップ三味線,一輪車,寸劇と,実に様々。

名士職域かくし芸 芸能大会プログラムの画像

 なお,根室更生保護女性会も「職域かくし芸 芸能のひととき」として開催していて(今年で31回目),他に広がりつつあります。


受け継がれしもの
  その中の「トリ」が名士による隠し芸。この「名士」とは,北海道の振興局長,釧路市長,そして更生保護関係ですので法務省の各機関の長です。検事正が参加し始めたのが2004年の會田正和検事正からで,以後は歴代検事正に引き継がれています。仕事ではありません。しかし,地域の更生保護のためであり,時間外で参加するわけです。
 踊りの稽古をつけてくださるのは,卒寿を迎えた花柳壽登芳(はなやぎじゅとよし)師匠と,その一門の名取の方々。7月下旬から9月の本番まで,勤務終了後の夜に1回2時間・約20回の稽古。更生保護女性会の方も毎回お世話役として通います。平成24年のメンバーは6名で,検事正・釧路法務局長・釧路刑務支所長・釧路少年鑑別所長・釧路総合振興局長・釧路市長。全員が揃うのは難しく,仕事の合間を縫っての稽古になりますが,数回欠席するのみでした(私は皆勤)。


稽古で学ぶ
  こういうことでもないと日本舞踊に触れることはありませんが,稽古を通じて学んだことは数多く,ここで幾つか紹介します。


1 伝承の世界
 演目は毎年変わり,今年は長唄「連獅子」。オリジナルは長いものの,隠し芸用に師匠が10分に構成したものです。師匠は全体イメージを持っていても,我々は言われたままに動くのみ。10回目まではその部分が全体の何分の一なのか,先がどうなるのか皆目見当が付きません。習う側から「名取さんが踊るのをDVDにして自宅でも練習したい」と要望を出しても,師匠は「踊りはそういうものではないのよね」と一言。
 そして師匠は踊り手6人の体格・動作・見栄え・手足の動きを見ながら,「これは無理。あれは無理。こっちが良い」などと,少しずつ振り付けを変えていくのです。つまり,6人用の完成版は存在しない。基本はあっても,工夫と応用で徐々に創り上げるのです。
 我々の発想は,いわばDVDという「マニュアル」に頼るものです。普段は,部下職員に「マニュアルに頼るな!」と言う側ですから,皮肉でもあります。考えてみれば,プロが踊るDVDを見ても素人が踊れるはずもありません。)


2 運動量の多さ
 見た目はゆったりした優雅な日本舞踊ですが,実際に動いてみると結構な運動量で,少し動いただけで汗だくになります。準備がいかに大変かを改めて体で知ることになります。巷で盛んなダイエットには日本舞踊を学んだ方が日本人にとっては,伝統文化も知ることができて一石二鳥でしょう。)


3 指導のコツ
 師匠は,厳しい指摘,ユーモア,誉め言葉を混ぜながら進め,15回目にして全体の振り付けが決まる。決まった後こそ,今まで大目に見てきた部分に厳しい指導が入りました。このやり方は,分野は違えども,人を指導するときに非常に役立つものです。そして,本番前日の着付けの時には,師匠はそれぞれに「格好いい」「立派だ」と,その気にさせる一言を添える。
 いくら素人相手とはいえ,師匠としては観客に見せる内容に仕上げたい,これを機に日本舞踊の理解を得たい(いわば広報)。プロの心意気を垣間見た気がします。)


4 何事にも理由あり
 9月8日(土)は本番前日のリハーサル。初めて紋付き袴を身に着けますが,着付けに一人15分で6人居ますので,それだけで90分かかります。こんなにきつく締められるとは予想外でしたが,自然と背筋が伸び,そして踊りで動いても着崩れしないためには当然と言えば当然です。経験してみないと頭の中だけでは理解できないものです。)


何でも仕事に活かせる
 そして,平成24年9月9日(日)の本番!
 結果はどうあれ,地域の活動に参加して貢献したと言えましょう。
 着任挨拶で「守・破・離」を引用しましたが,この稽古を通じて実例を見た気がします。
 師匠は,まさに基本を身に着け,その時々の状況に応じて新たなものを創り出す,そういう見本を目の当たりにして,これを仕事に活かしていけるわけで,実に充実した有意義な活動でした。

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