検察事務官バッジで語る役割の重要性

最終更新日:2015年12月28日

元釧路地方検察庁検事正 山 下 輝 年

もう一つの新年
 新年が明けてから1か月が過ぎました。しかし,この2013年2月10日,再び新年がやってきます。そう旧正月のことです。日本は,旧暦明治5年12月3日を新暦明治6年1月1日と改定して以来,長い年月を経て,いつの間にか旧正月が忘れ去られてしまった。アジアでは日本だけでしょう(中国は“春節”,韓国は“ソルラル”,ベトナムは“テト”と呼び,いずれも一大行事)。
 同じように,来る3月3日は雛祭りですが,桃の節句ですから本来は旧暦で意味がある。新暦3月3日では桃の花はまず入手困難だからです。ついでに干支も本来は陰暦(旧暦)で考えるべきで,新暦1月2月生まれの人は,要注意でしょう。
 このように中華圏由来のものが数多くあり,日本の国連加盟演説(1956年12月18日)でも「日本はアジアと“唇歯輔車”の関係にある」(重光葵全権委任大使)と謳われました。中国の諺「輔車相拠り,唇滅ぶれば歯寒し」に由来する熟語で,互いに別物だが切り離せないという意味です。北海道は中華圏の人々の人気の的であり,釧路にもJICA研修生が滞在します。何事も由来や起源が重要という意味もあって,旧暦の新年の機会を捉えて年頭の挨拶です。
 
 
検察官バッジと事務官バッジ
 検察庁のHPには,この二つのバッジ(図柄)が描かれています。そして検察官バッジについては,説明があります(「Q&Aコーナー」の“その他”参照)。その説明要旨は次のとおり。
 ・・・その形が霜と日差しの組合せに似ていることから,厳正な検事の職務とその理想像とが相まって「秋霜烈日のバッジ」と呼ばれているようです・・・
 ちなみに副検事のバッジは,金色の部分が銀色になっているだけで,全く同じ形です。副検事とても同じ役割ですから「厳正な検察官の職務と・・・」と読み替えるべきでしょう。
 しかし,検察事務官のバッジの説明がありません。事務官バッジは「桐の紋」です。茶色だから余り目立ちません。日本男性はダーク色のスーツが多いのでますます目立たない。そこで,その由来と意味を考えて,いかに検察事務官の役割の重要性を伝えたい。検察庁の内外で,陽当たり良好にしてみようというわけです。

検察官バッジと事務官バッジの画像






 

桐紋の由来
 法務省の桐紋は「五三桐紋」(ごさんのきりもん)で,葉が3本上に伸びており,その葉の数は中央が5つ,その両側が3つです。皇室は「五七桐紋」です(葉の数は中央が7,両側が5)。五三であれ五七であれ,桐紋の由来を調べると,中国では聖王が出たときに鳳凰が現れて祝福することになっており,その鳳凰が止まるのが桐の樹だというのです。
 そして,日本では,桐紋は,後醍醐天皇から足利尊氏へ(鎌倉幕府打倒功績の恩賞),足利家から更に細川家・斯波家などの功績者へ,そして信長から秀吉に与えられ,秀吉は別に後陽成天皇から豊臣の姓と桐紋を与えられた。よって,豊臣秀吉の家紋は「五三桐紋」になったとのことです。秀吉は,前田利家などの大名に気前よく桐紋を与えたらしい(武光誠著「知っておきたい日本の名字と家紋」角川ソフィア文庫から)。明治神宮のHPを見ると,やはり五三桐紋です。
 ここからは個人的な解釈になりますが,桐紋は,鳳凰が止まる樹として,聖王(日本では天皇)を支えるから,戦前の日本国家に擬えると,天皇を支える省庁として,本来どの省庁も使って良かったはずで,法務省が使っているのも,この辺りに理由がありそうです。他省庁をHPで調べると,首相官邸が五七桐紋,皇宮警察が五三桐紋,パスポート(外務省管轄)には五七桐紋が印刷されており,やはり法務省だけのものではない。

 
事務官バッジの意味
 もちろん天皇を支えるというと,現代法制では語弊があるかも知れません。しかし,歴史や故事来歴を使わない手はない。現代は国民主権ですから,鳳凰が現れて祝福する聖王というのは,「国家」,そしてその構成員たる「国民」を意味すると考えればよいでしょう。鳳凰が太平の世に現れるならば,平和の象徴でもあり,日本国憲法にも合致します。
 ということで,鳳凰が舞い降りるのは平和な世の中の時であり,祝福する相手は聖王つまり「国民」であり,現れる場所はその止まり木となる「桐の樹」ということになります。法務検察の五三桐紋は,国民と平和を支える用意ができているという意味に捉えられます。
 そうであるならば,検察を支える事務官については,次のように言えるでしょう。
 桐紋のバッジは,本来,平和の象徴として鳳凰が舞い降りる樹です。この樹がなければ鳳凰が来れません。ですから,この樹を枯らしてはならぬ。いつでも鳳凰を迎えられるよう,各人が努力して職務を遂行する。それが国民,そして平和を支える役割を担うのが法務検察の事務官なのです。そういう意味が事務官バッジに込められています。


 先に述べたように,事務官バッジは茶色で目立ちません。同じく,華やかな鳳凰に対して桐の樹も目立たない止まり木です。そして事務官の存在は検察官に隠れて見えにくいものです。しかし,日常ごく当たり前の目立たぬ業務を当たり前に着実に行う,そういう事務官の業務があってこそ検察が成り立ち,日本の平和に繋がるのです。それは鳳凰(平和の世)が来るまでじっと立っている桐の樹の姿と重なります。
 今年も,まずは日々当たり前のことを当たり前のように一つずつ進めていきましょう。

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